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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)40号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決認定の相違点(一)についての判断の誤りの主張(審決取消事由第一点)について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第九号証(第二引用例)によれば、

(1) 第二引用例は、電話回線で自動式交換機等を経由して端末装置への通話回路を構成した後、伝送周波数の断続数の組合わせにより端末装置を遠隔制御する方式の発明の特許出願公告公報であること、

(2) 第二引用例には、遠隔操作を行うためのリモコン信号として、継続して送信される一定周波数の制御用断続信号と、この制御用断続信号に先立つて到来する一定時間幅のゲート用信号とを用いることが開示されていること、

(3) 第二引用例に実施例として記載されたものでは、ゲート用信号は、スイツチングトランジスタ9を導通させて継電器Xを動作させ、右継電器Xの動作によつて、接点X1はフリツプフロツプ回路FF1からFF4までの動作を準備し、接点X2はタイマ回路15に入力信号を与え、接点X3は音声誤動作防止用ゲート回路10に入力信号を与えること、これにより、音声誤動作防止用ゲート回路10は数秒後スイツチングトランジスタ13を開にして継電器Yを動作させ、右継電器Yの動作によつて接点y1を閉成し、入力端子23に加わる入力信号がフリツプフロツプ回路に入力されること、これは、断続信号が一つ加えられたのと同じ状態となり、これに続く断続信号は二から計数を開始することになること、

(4) 同じく、制御用断続信号は、フリツプフロツプ回路FF1からFF4までに入力されて、右ゲート用信号と共に計数され、計数値が接続端子の切替位置によつて設定された値に等しくなると、アンドゲート回路14に出力が生じ、この出力はアンドゲート回路19を介してスイツチングトランジスタ21を動作させ、出力端子26の電位を変化させるもので、自動応答録音装置に適用した場合は、録音状態を再生状態としたり、再生状態を録音状態に変化させる制御が可能になること、この方式でフリツプフロツプ回路の数をn個とすれば、2n-1の断続信号の数を識別できること、が認められる。

(二) 右(一)(3)認定の事実によれば、第二引用例に実施例として記載されているもののゲート用信号の主な機能は、端末装置のフリツプフロツプ回路に制御用断続信号が入力されるようにすることにあり、右(一)(4)認定の事実によれば、制御用断続信号の機能は、フリツプフロツプ回路で計数されることにより、その計数値が予め決められた設定値に等しい場合に、出力端子26の電位を変化させるもので、自動応答録音装置に適用した場合であれば、録音状態を再生状態としたり、再生状態を録音状態に変化させる制御をすることにあるものと認められるから、右ゲート用信号は「遠隔操作を可能にする信号」に、制御用断続信号は「受信用テープの操作の制御を行うためのリモコン信号」に当たると解することができるかのようである。

しかし、右ゲート用信号は、それ自体がフリツプフロツプ回路に入力され、これにより断続信号が一つ加えられたのと同じ状態となり、これに続く断続信号は二から計数を開始することになることは右(一)(3)認定のとおりであるから、してみれば、ゲート用信号は、その後に続く断続信号と一体となつて「受信用テープの操作の制御を行うためのリモコン信号」を形成する機能も果たしているものである。したがつて、第二引用例に記載されたものは、最初の信号で遠隔操作を可能にし、「その後送出する」リモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うものと解することはできず、また、右ゲート用信号と断続信号とが通算して計数されていることからすれば、ゲート用信号とそれに続く断続信号が別個の桁を成していると解することもできない。

したがつて、「全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うこと」が周知の技術手段であるとし、このことが第二引用例に開示されていることを前提とするその旨の本件審決の認定は第二引用例を、右の周知の技術手段を例示する資料とした点で誤りであるといわなければならない。

右の点につき、被告が縷々主張するところは、採ることができない。

(三) しかし、本件審決は、右のとおり「全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うこと」が本願出願前より周知の技術手段であると認定し、その例として第二引用例を参照すべき旨を示しているものであることは、当事者間に争いがない本件審決の理由の要点(請求の原因三)の4(一)の記載から明らかであり、本件審決に右に述べた誤りがあるからといつて、右「全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うこと」が本願出願前より周知の技術手段であるとの本件審決の認定が当然に誤りであるといえないことは、見易い道理である。

(四) ところで、請求の原因に対する被告の認否及び主張二1(二)の主張中、乙第二号証(特開昭四九―三七五〇五号公開特許公報)には、電話回線を使用して機器の遠隔制御を行う信号受信装置が開示され、次の(1)ないし(3)のとおりの記載があることは当事者間に争いがない。

(1) 従前技術に関する記載として、「近年電話回線を使用して種々の機器、例えば家庭内の冷暖房機器を遠隔制御するようなことが提案され、実用化の方向に向かつているが、この電話回線を使用した機器の遠隔制御は次のような手順で行われるのが一般的である。」旨(乙第二号証二枚目左上欄六行から一〇行まで参照)。

(2) 「SUB・Aではその確認音を聞いた後SUB・Bの信号受信装置REに与えられた特定番号(機密性を保つため、即ち、不特定多数によつて遠隔制御されるのを防止するための特定番号。以下「キーダイヤル番号」という。)をダイヤルし、該キーダイヤル番号が正しくダイヤルされると、信号受信装置REよりSUB・Aに制御操作が可能であることを知らせる信号音を送出する。」旨(乙第二号証二枚目右上欄六行から一三行まで参照)。

(3) SUB・Aはこの信号音を聞いたのち遠隔制御を受ける機器C1、C2、……Cnに対応して設けられた特定番号(以下「制御ダイヤル番号」という。)をダイヤルすると希望する機器の制御が行われる。」旨(乙第二号証二枚目右上欄一四行から一八行まで参照)。

(五) 原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証によれば、更に、次の事実が認められる。

(1) 乙第二号証は、昭和四七年八月七日出願にかかる、名称を「機器の作動制御のための信号受信方式」とする発明の公開特許公報(特開昭四九―三七五〇五号)である。

(2) 乙第二号証登載の明細書の発明の詳細な説明の欄には、前記(四)(1)の記載の後に、「発信側SUB・Aで受信側SUB・Bの加入番号をダイヤルすると……(中略)……通信路が形成され、呼出し音が受信側SUB・Bに送出される。受信側SUB・Bでは電話機TELで応答すればそのまま通常の通話に入り、応答しなければ一定の時間ののち、切替部SWで自動応答し、かつ切替部SWでは通信路が電話機TELから遠隔制御のための信号受信装置REに切替わるとともに通信路が信号受信装置REに接続されたことを確認する信号音をSUB・Aに送出する。」旨の記載(乙第二号証二枚目左上欄一一行から右上欄一八行まで参照)があり、その後に前記(四)(2)及び(3)の記載が続くものである。

(3) 右公報に登載の明細書の発明の詳細な説明の欄には、更に、キーダイヤル番号の設定に当つてはその機密性を高くするために、その桁数を多くする必要がある旨(乙第二号証二枚目左下欄七行から九行まで)の記載がある他、右公報に登載の第2図に示された実施例の説明中には、キーダイヤル番号を六桁とし、制御ダイヤル番号を二桁とする場合の前記の従来技術に関する論理構成図(右第2図)に基づく説明部分もある。

(六) 右(四)の(1)(2)(3)及び(五)(2)の事実によれば、乙第二号証(前記公開特許公報)に従来の一般的な技術として記載されたもののキーダイヤル番号は遠隔操作を可能にするリモコン信号であり、制御ダイヤル番号は受信側の機器(その中に遠隔聴取が可能な留守番電話装置の受信用テープ再生装置が含まれることは明らかである。)の操作の制御を行うリモコン信号であり、しかも、キーダイヤル番号と制御ダイヤル番号とは別の桁を構成し、そのおのおのが一桁以上であると解することができるから、「全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープ操作の制御を行うこと」が、乙第二号証に従来の一般的な技術として記載されているものと解するのが相当である。

しかして、右(五)(1)に認定の事実に、当事者間に争いがない請求の原因一の事実を合わせ考えると、乙第二号証記載の発明については、本願発明の出願の約四年八月前に特許出願され、約三年前に公開されたものであるから、その明細書において従来の一般的な技術として記載されている「全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープ操作の制御を行うこと」は、本願出願前において既に周知の技術手段であつたものと認めるのが相当である。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

(七) 以上のとおり、本件審決が「全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープ操作の制御を行うこと」が本願出願前より周知の技術手段であつたことの例として第二引用例を挙げたことは誤りであるが、右技術手段が本願出願前より周知のことであつた旨の認定には、原告主張の事実誤認は認められない。

2(一) 一般に留守番電話装置における遠隔聴取方法としては、その電話の加入者等の特定の者のみが、受信用テープに録音されているメツセージを聴取でき、その他の者は聴取できないことが望ましいことは自明であるから、遠隔操作を可能とする鍵となるリモコン信号は、加入者等の特定の者以外の他人が簡単に解読できないものであることが望ましいということができる。ところで、鍵信号の桁数を多くすることによつて、鍵信号の解読を困難化することが、技術常識に属することは当事者間に争いがない。したがつて、遠隔操作を可能にするリモコン信号を数桁の信号で形成することにより、各桁の信号の数が所定数でなければ遠隔操作が可能にならないから解読が難しく鍵としての機能が十分であるという効果は、この種遠隔聴取方法において奏せられる自明のことに過ぎず、特段の効果とは認められない。

(二) 一方、遠隔操作が可能になつた後に遠隔操作を行う信号としては、行うべき遠隔操作の種類を区別できることが必要であるところ、本願発明のような受信用テープ聴取のために必要な操作としては、巻戻し、巻戻し停止、再生、再生停止、復旧等が考えられるに過ぎず、それらはせいぜい一桁の数の種類の操作であるから、遠隔操作を行うリモコン信号を一桁とすることが可能である。遠隔操作を行うリモコン信号の桁数が少ない方がそれを発信するための操作が簡単であり、一桁の場合が最も簡単であることは自明であるから、遠隔操作が可能になつた後に一桁のリモコン信号により受信用テープの各種制御を簡単に行えるという効果も、遠隔操作を行うリモコン信号を一桁としたことにより当然予測できるものであり、特段の効果とは認められない。

(三) また、数桁からなる断続信号を発生させるのに、一種類の断続信号しか発生しない一個の発生源から発生させることは当然であり(むしろ、一種類の信号しか発生しない一個の発生源から発生させるからこそ、複雑な信号とするためには数桁に分ける必要がある。)、技術常識であり、多種の信号を発生させる発生源や数個の発生源を使用するのではなく、一種類の信号しか発生しない一個の発生源のみを使用し、断続的可聴音を発する腕時計を送話口から引き離したときを桁と桁との区切りとする点で簡単であることも自明の効果であつて、特段の効果ではない。更に、所定数を示す信号を送信する場合に、断続信号を連続的に所定数個送信するのではなく、その所定数を数桁に桁分けし、桁毎に区切りを設けた信号にすることも、前記1(四)の(2)(3)、及び(六)に認定したように周知の技術手段であり、それは、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証によつて認められる、電話のダイヤル番号も所定数を数桁に桁分けし、桁毎に区切りを設けた信号として構成されていることからも明かであるところ、所定数を示す信号を、断続信号を連続的に所定数個送信するように構成するよりも、その所定数を数桁に桁分けする方が、発信に時間を要せず、かつ、計数誤りも少ないことは自明の効果であつて、特段の効果ではない。

(四) 以上のとおり、本件審決には、原告が請求の原因四1(三)に主張するような、本願発明の特段の効果の看過誤認は認められない。

3 全体を数桁のリモコン信号で形成し、最初の桁信号で遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープ操作の制御を行うことが本願出願前より周知の技術手段であつたことは前記1に判断したとおりであるところ、前記乙第二号証の記載に照らしても、遠隔操作を可能にするリモコン信号及び遠隔操作を行うリモコン信号のそれぞれの桁数を一桁以上に増加させるために必要な技術的構成は、本件出願当時において当業技術者に周知であつたと解するのが相当である。したがつて、遠隔操作を可能にするリモコン信号を何桁にするかは、鍵信号の解読を困難にする必要性の程度、受信装置の複雑化に伴う技術的経済的要因及び発信操作の手数その他の要素を勘案して選択すべき設計的事項であり、受信テープの操作の制御を行うリモコン信号を何桁にするかは、その操作項目の数及び発信操作の簡単さ等を勘案して、適宜選択すべき設計的事項であつたものである。リモコン信号を数桁にすることは設計上の選択事項ではない旨の原告の主張は採用できない。

原告は、同一の信号源からなるリモコン信号の桁と桁との間に区切りを設けて区切りによつて桁を構成して、数桁のリモコン信号を構成することは設計上の選択事項ではなく、本願発明のように断続的可聴音を出す腕時計を送話口に近接して断続信号を送信し、その後、腕時計を送話口より引き離す動作を繰り返して行うことにより、腕時計を送話口に近接したとき送信する断続信号の数を一桁の数として数桁の信号を構成することも設計上の選択事項ではない旨主張するが、請求の原因四1(四)に判断を誤つているものとして引用された審決部分は、右主張のような事項を設計上の選択事項と判断したものでないことは明白であり、原告の右主張は採用するに由ない。

4 右1ないし3のとおりであるから、「数桁のリモコン信号によつて遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うよう構成することは当業技術者が容易になし得ること」であるとした本件審決の相違点(一)についての判断には、原告主張の誤りは認められない。

なお、原告は、本願発明は、乙第二号証記載のもののように、単にダイヤルを回せば各桁を構成する数のパルス(信号)が送出されるものと異なり、腕時計から発生するアラーム音を利用して数桁の鍵となるリモコン信号を形成させるものであるから、その形成方法は、乙第二号証で示されるような従来技術とは異なり、新規なもので、かつ、従来技術から容易に想定できるものではない旨主張する。

しかし、本件審決は、その認定した相違点(一)についての判断においては、本願発明のように「数桁のリモコン信号によつて遠隔制御を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うよう構成すること」は、当業技術者が容易になし得ることといわざるを得ないと判断しているのであつて、「腕時計から発生するアラーム音を利用して数桁の鍵となるリモコン信号を形成させる」というようなリモコン信号の発信源の構成について、従来技術から容易に推考できると判断しているものでないことは、当事者間に争いがない請求の原因三記載の本件審決の理由の要点及び成立に争いのない甲第一号証の記載から明らかである。したがつて、原告の右主張も、採用するに由ない。

三 次に、本件審決認定の相違点(二)についての判断の誤りの主張(審決取消事由第二点)について判断する。

1 留守番電話装置の遠隔聴取方法において「数桁のリモコン信号によつて遠隔操作を可能にし、その後送出する一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作の制御を行うよう構成することは当業技術者が容易になし得ること」であるとした本件審決の相違点(一)についての判断には、原告主張の誤りは認められないことは、前記二に判断したとおりである。

また、留守番電話装置の遠隔聴取用のリモコン信号を形成する、所定回数の断続的可聴音を発生させる機構として、電子腕時計のアラーム音を利用することが当業技術者の容易になし得ることであることは後記3に判断するとおりである。

腕時計は所定時刻にセツトしなければ、連続した断続的可聴音からなるアラーム音を発生しないのが自明であるから、留守番電話装置の遠隔聴取用のリモコン信号を形成する、断続的可聴音を発生させる機構として、腕時計のアラーム音を利用する場合は、当該腕時計をあらかじめセツトされた時刻に、連続した断続的可聴音からなるアラーム音を発生するようにセツトすることは自明の付随的措置であり、この点についての本件審決の判断には誤りはない。

また、腕時計から発生するアラーム音は、連続した断続的可聴音であるから、所定回数の断続的可聴音を送出するには、アラームの断続的可聴音が発生している間に、最寄りの電話器から留守番電話装置の取り付けられている電話器に電話をかけて、リモコン信号を送出すべき時に電話器の送話口に腕時計を近づけて、所定回数の断続的可聴音を送出した後、腕時計を送話口から離す必要のあることは、当然のことであり、この点を、腕時計の断続的可聴音をリモコン信号発生に用いる際の自明な付随的措置であるとする本件審決の判断に誤りはない。

更に、数桁のリモコン信号を形成するには、各桁毎の所定回数の断続的可聴音を送出するとともに、桁と桁との区切りとして間隔を置く必要があるから、腕時計を送話口に近づけたり、引き離したりを、所定時間内に決められた回数行う必要のあることは、自明の理であり、この点を、腕時計の断続的可聴音を数桁のリモコン信号発生に用いる際の自明の付随的措置であるとする本件審決の判断に誤りはない。

以上のとおり、本件審決には、原告が請求の原因四2(一)に主張するような認定判断の誤りは認められない。

2 留守番電話装置の遠隔聴取用リモコン信号を数桁の信号で形成することが周知の技術手段であり、効果上も格別な点が認められないので、本願発明の如く構成することは当業技術者が必要に応じて容易になし得ることである旨の判断が誤りであるとは認められないことは、前記二に判断したとおりである。

また、一種類の断続信号しか発生しない発生源から、数桁からなる断続信号を発生させることが技術常識であること、所定数を示す信号を送信する場合に、断続信号を連続的に所定数個送信するのではなく、その所定数を数桁に桁分けし、桁毎に区切りを設けた信号にすることが周知の技術手段であることも、前記二2(三)に判断したとおりである。

断続的可聴音を発生する機構として、本願発明のように腕時計のアラーム音を用いることが容易に推考できることであることは後記3に判断するとおりであり、断続的可聴音を発生する機構として腕時計のアラーム音を用い、数桁のリモコン信号を形成する場合、断続的可聴音を発生する腕時計を電話機の送話口に近づけ、断続的可聴音の数によつて一桁の信号とし、腕時計を送話口より離すことにより桁と桁との区切りとして、次に腕時計を送話口に近づけたときの断続的可聴音の数によつて次の桁の信号とし、数桁の信号で構成されるリモコン信号とすることが当然のことであることは、右1に判断したとおりである。

以上のとおり、本件審決には、原告が請求の原因四2(二)に主張するような認定判断の誤りは認められない。

3(一) 成立に争いのない甲第八号証(第一引用例)によれば、

(1) 第一引用例は、電話線を利用して電話加入者宅内に取り付けた種々の電気機器、特に留守番電話装置を遠隔制御するための信号発生装置に関する発明の特許出願公告公報であること、

(2) 第一引用例には、右のようなものの遠隔制御のための従来技術について、特定の音声信号を発生させ得る信号装置を持ち歩き、これを外部電話器の送話器に結合して信号を伝送するのが普通である旨の記載があること、

(3) 右第一引用例記載の発明は、音声信号を断続させてその断続回数で情報を伝達し又はリモコン信号の鍵信号を構成する信号方式に必要な断続信号を発生させる装置についてのものであること、

(4) 第一引用例には、右発明の装置につき、電話器の送話器に右装置の一端を嵌合して取り付け、開閉器を閉じ、音声の断続信号が所要の回数に達した時開閉器を開いて信号の発生を停止させれば、求めるリモコン用信号を送出できる旨、右の断続信号は、誤動作防止のため、断続時間、即ちメーク、ブレーク時間の正確なものが要求される旨及び右発明の信号発生装置によれば、規則正しい正確な断続信号を所要数だけ、また、何桁でも開閉器の簡単な操作で送出できる旨の記載があること、

が認められる。

(二) 右認定の事実によれば、右のような遠隔制御に用いる、音声信号を断続させてその断続回数で情報を伝達し又はリモコン信号の鍵信号を構成する信号方式に必要な断続信号を発生させる装置としては、第一引用例記載の発明の装置に限らず、携帯することができ、電話器の送話口に接合することが可能で、断続時間の正確な断続する音声信号を発生するものであればよいことは、第一引用例から容易に認識することができるものというべきである。

(三) 他方、アラーム付き腕時計は本件出願当時既にありふれたものであつたところ、その発生するアラーム音が、断続時間の正確な断続する音声信号からなるものであることは、その音を聞けば直ちに認識できるものであり、かつ、アラーム付き腕時計が、携帯することができ、電話器の送話口に接合することが可能であることは、自明のことである。

(四) 右(一)(二)(三)の事実によれば、留守番電話装置の遠隔聴取に用いる断続的音声信号の発生機構として、アラーム付き腕時計のアラーム音を用いることは当業技術者が容易に想到できるものであることは明らかである。

(五) 原告は、腕時計から発するアラーム音を留守番電話装置のリモコン信号に利用することによつて、「<1>特別なリモコン信号発生源を携帯する必要がない。<2>リモコン信号の設定、変更が容易である。即ち、リモコン信号を腕時計から発するアラーム音の断続数で構成しているから、リモコン信号の種類(断続数の数及び桁数)が任意に設定、変更できる。<3>留守番電話装置を量産する場合、リモコン信号発生源の信号コードに合わせ、ロツトの度にリモコン信号のコードを変えて製造する必要がなく、製造が簡単となる。<4>腕時計に、リモコンをかける時刻にアラームが鳴るようセツトしておき、アラームが鳴つた時にリモコンをかけるようにすることにより、リモコンをかける時刻を忘れることなく、かつ、そのアラーム音をリモコン信号として利用できる。」という、本願発明が奏する、特段の効果があるにもかかわらず、本件審決は、これらの効果を看過誤認した旨主張し、成立に争いのない甲第二号証ないし甲第七号証によれば、本願発明により右<1>ないし<4>の効果を奏することができることが認められる。

しかし、右<2>及び<3>の効果は、断続信号の発生源が第一引用例記載の発明の装置であつても達成できることは前記(一)に認定した事実から明らかであり、断続的音声信号の発生機構として、アラーム付き腕時計のアラーム音を利用することによる特段の効果とはいえない。また、本願発明においては、専用の特別なリモコン信号発生源を携帯する必要はないが、アラーム付き腕時計を携帯する必要があり、右<1>の効果もさして顕著なものとはいえない。更に、右<4>の効果の内、腕時計に、リモコンをかける時刻にアラームが鳴るようセツトしておき、アラームが鳴つた時にリモコンをかけるようにすることにより、リモコンをかける時刻を忘れることがない点は、アラーム付き腕時計の本来的な機能、効果をそのまま発揮させたに過ぎないから特段の効果とはいえず、右<4>効果の内、セツトした時刻に鳴つたアラーム音をリモコン信号として利用できる点は、アラーム音をリモコン信号として利用する構成そのものから生じる自明な効果であつて、特段の効果ということはできない。

(六) 以上のとおり、本件審決には、原告が請求の原因四2(三)に主張するような認定判断の誤りは認められない。

4 右1ないし3のとおりであるから、本件審決の相違点(二)についての判断には、原告主張の誤りは認められない。

四 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

電話の着信に応じて自動的に閉結し閉結後送られてくる数桁のリモコン信号によつて遠隔操作を可能にし、その後送られてくる一桁のリモコン信号によつて受信用テープの操作及び復旧を行う留守番電話装置における遠隔聴取方法において、前記リモコン信号は腕時計から発生する断続的な可聴音で形成し、前記腕時計は予めセツトされた時刻にアラーム(可聴音)を発生させるようセツトし、該アラームの可聴音が発生している間に、最寄りの電話から留守番電話を呼んで応答用語を聞いている間、前記腕時計を電話の送話口に近接させて前記腕時計から発生する断続的可聴音を送出し、次いでこれを送話口から引き離し、この動作を予め決められた時間内に決められた回数行うことにより、各動作中に電話線に送られた断続的可聴音の数を前記留守番電話装置内部でカウントし、該各カウント値が設定された数と一致するとリモコン操作回路が作動し、巻戻し後再び前記腕時計を電話口に近接してアラーム音を手動で再び発生させ希望する遠隔操作に対応する回数の断続音を電話線に送出し、留守番電話装置内部で該断続音をカウントし、そのカウント値に応じて受信用テープの操作及び留守番電話装置の復旧等の作用を為さしめることを特徴とする留守番電話の遠隔聴取方法。

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